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コンセプト
なぜ地図なのか? ~旅は地図から始まる~
携帯する情報として、もっとも基本的かつ重要なのが地理情報であり、ツールとして地図というのは、旅において欠かせないアイテムである。
それを差し引いても尚、地図は魅力あるものだと思う。
地図は旅を豊かにしてくれる。
プランニングから地図があるのとないのとでは大きな違いが出る。
気付かなかったことにも気付かせてくれ、これから向かう地のイメージを膨らませてくれる。
旅をするきっかけにもなるだろう。
単なる資料としてではない。常に傍らにある相棒として、旅の時間はその存在感を大きくしていくだろう。
辺境地にまで足を伸ばそうとする者にとって、地図があるという事実は勇気を与えてくれる。
その手助けをしたい。実のある旅を成す勇気を贈りたい。
そんな願いを込め、地図を提供したいと考えている。
旅の日々
辺境への旅を繰り返していた。
転がり出したものを自分でも抑えきれなかった。
夏のカナダ極北、北極圏に近いところは地平線に日は沈むにせよ、完全に暗くなることはない。
大河マッケンジーを小さな渡しボートで対岸に渡る。
渡しボートの船頭がボートをターンさせ対岸の町へ引き上げていくと、荷物とともにぽつりと取り残された感が襲ってきた。
目の前に広がるのは、ワイルド・ランド。
もう引き返す手立てはない。
何日もかけて極北のトレイルをトラバースしようと考えていた。
しかもたったひとりで。
ひとシーズンにいったい何パーティー入域するだろうというマイナー・トレイルである。
径は自然に還りかけ、ブッシュを掻き分け進むパートもある。
その日のキャンプでの出来事は、この旅に強烈なイメージを刻みつけることになった。
極北でもとりわけクマの密度の濃いエリア内に、無防備にもたったひとりで立ち入ってしまっていた。
そこら中につけられた獣道がそのことを物語っていた。
最初に出遭ったヤツは優しかった。
30数年前まで人が駐在していた廃墟にキャンプしていたときだ。
夕食の準備をしていたところへ、突然現われた。
ブラックベア。
体長はそれほど大きくなかった。傍らにあったベア・スプレーを取って対峙する。
よく見ると、ヤツも困惑している。
瞳が「どうしよう」と彷徨っている。
そんなクマの気持ちを見てとれたからか、自分でも不思議なほど恐怖心はなかった。
もしかしたら人間を初めて見たのかもしれない。
まだ毛のつやの良い若いクマだ。
逡巡した挙句、ヤツはゆっくりと立ち去った。
しばらくは動けなかったが、クマたちと同じ地平にいたのではいけない、そう思い廃墟の屋根の上に登ってテントを張り直した。
夜、といっても空は薄明るく、その下で枝を踏む音と、クフーという鼻息が聞こえてきた。
テントのジッパーをそっと開け、下を覗いてみると、ブラックベアの親子が歩いている。
この廃墟はクマたちのとおり道になっているに違いない。
眠れぬ夜を過ごし、翌日、クマに追い立てられるようにトレイルをさらに奥へと進む。
しかし行く手にはツンドラの湿地帯が待ち構え、ブッシュに径は消えている。
踏めば沈む足下と、ただ目の前に広がる強大な自然に呆然と立ち尽くし、ブッシュに沈む地べたから極北の空を見上げる。
気持ちはぽっきりと折れてしまった。
「もう、ここまでだな」
屈せざるを得なかった。負けを認めるしかない。
たった数キロ、トレイルを進んだだけだった。
完全トラバースを夢見て手に入れたカナダ製の地形図が残っている。
この旅を思い立ったときから何度広げて見たことだろう。
破線で示されたトレイル・ラインは、実際は自然に消え入ろうとしていた。
しかしそこを踏破する自分を想像し、その地図は間違いなく夢を見させてくれた。
今もこの地形図を広げると、あのときの感覚がよみがえる。